2016年12月22日木曜日

辺野古訴訟:沖縄県敗訴(2016/12/20) - 各新聞社 社説から

【社説】 辺野古判決 沖縄の声を聞かぬとは

東京新聞 2016年12月21日

社説 辺野古訴訟 沖縄県敗訴/「北風」では解決が遠のく

河北新報 2016年12月21日水曜日


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【社説】 辺野古判決 沖縄の声を聞かぬとは

東京新聞 2016年12月21日


沖縄の声を聞かずに結論を出すとは…。米軍普天間飛行場の辺野古移設をめぐる最高裁判決は「沖縄敗訴」だった。国と地方は対等という地方自治の精神を踏みにじる判断と言うべきである。

 地方自治とは何だろうか。憲法の条文には、地方公共団体の組織や運営については「地方自治の本旨」に基づき法律で定めるとしている。では「地方自治の本旨」とは何か。その地域の住民自らが自分たちの要望に沿った政治を国から干渉を受けることなく実現することだと解されている。

 だから、「地方自治は民主主義の学校」と言われる。中央政府が一手に強大な権力を握らないよう、権力を地方に分散させる意義があるとも説明されている。明治憲法にはなかった規定であり、戦後の民主主義社会では十分に尊重されねばならない条文だ。

 だから、沖縄県側は「民意に反する新基地建設の強行は憲法が保障する地方自治権の侵害だ」と憲法違反を訴え上告していた。

 この観点からすれば、最高裁は大法廷に回付し、十分に審理したうえで、憲法判断に踏み込むべきだったと考える。だが翁長雄志(おながたけし)知事の言い分を聞く弁論さえ開かず、「国の指示に従わないのは不作為で違法」と退けた。

 米軍基地という政治的・外交的な問題には、確かに国の裁量が働くであろう。だが、全面的に国の政策の前に地方が従順であるだけなら、地方自治の精神は機能しない。当然、米軍基地の大半を沖縄に押しつける理由にもならない。

 別の問題点もある。基地の辺野古移設に伴う海の埋め立て承認が今回の訴訟のテーマだった。つまり前知事による埋め立て承認の判断に違法性がなければ、現知事はそれを取り消すことができないのかというポイントだ。

 選挙という「民意」が現知事の主張を支持すれば、政策を変更できるのは当然ではないか。
 この点について、最高裁は「前知事の承認を審理判断すべきだ」「(現知事が)職権により承認を取り消すことは許されず、違法となる」と述べた。大いに疑問を抱く判断である。
 それでは選挙で民意に問うた意味がなくなってしまうからだ。県民の合意がないまま埋め立てを強行しては「民意より米軍優先」そのものにもなる。

 高裁は「辺野古しかない」と言い切った。その言葉はなくとも、最高裁の思考回路も「辺野古ありき」だったのではなかろうか。


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社説 辺野古訴訟 沖縄県敗訴/「北風」では解決が遠のく

河北新報
2016年12月21日水曜日

米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設計画を巡り、司法の最終判断が出されたにもかかわらず、事態が進展するどころか、国と沖縄県との対立は激化していくのではないか。

 辺野古沿岸部の埋め立て承認を取り消した翁長雄志知事が、是正指示に従わないのは違法だとして、国が知事を相手に起こした訴訟。最高裁第2小法廷はきのう知事側の上告を棄却した。県側敗訴の一審福岡高裁那覇支部判決が確定した。

 今回は大法廷ではなく小法廷で審議された。県側が民意に反した辺野古移設強行は「憲法が保障する地方自治の侵害」と主張したのに、なぜ憲法判断を避けたのか。

 小法廷でも弁論は開き、「沖縄差別論」に耳を傾けるべきだった。政治判断に全てを委ね、難題から逃げていると言わざるを得ない。最高裁の存在意義が問われよう。

 時あたかも、米軍普天間飛行場所属の新型輸送機オスプレイが不時着事故を起こし、過重な基地負担に苦しむ沖縄県民の怒りは頂点に達している。県外移設にこだわる県側からすれば、国の主張を丸のみしたような最高裁判決は納得できないだろう。

 沖縄県では、県民の8割以上が辺野古への移設に反対している。翁長知事は民意をバックに、敗訴が確定しても、阻止に向けて徹底抗戦する構えだ。

 知事には幅広い権限が付与されている。翁長知事はあくまで埋め立て承認取り消しの処分についての判断だと解釈しており、次の新たな手段に打って出る可能性が高い。

 来年3月末に期限が切れる辺野古の「岩礁破砕許可」を更新しないといった複数の方策を温めているという。次々と繰り出されていけば、事態の泥沼化は避けられない。

 安倍政権が安全保障や外交上の国益を大上段から振りかざすだけでは、この問題は一歩も動かないだろう。沖縄県にも住民の安全、生活、人権を守る自治体としての責務があるからだ。国が上位に立ち、地方に隷属を強いる思考はもう通じないのではないか。

 国際情勢も変わりつつある。海兵隊は沖縄以外に長崎県・佐世保基地やグアム、オーストラリアなど国内外に分散配置が進んでおり、政府が強調する「一体的運用論」や「地理的優位論」は、今や説得力を失ってきている。

 加えて次期米大統領のトランプ氏の登場である。選挙期間中に日本への米軍駐留経費の負担増を唱える一方、撤退も示唆している。沖縄県に追い風が吹く可能性すらあり、先行きは不透明だ。
 いずれにしても、複雑に絡み合った糸をほぐすには、理詰めで押し切ろうとしても無理がある。強硬姿勢一辺倒の「北風」路線には限界があり、粘り強い対話でしか解決する道がないことを、安倍政権は肝に銘じるべきだ。
2016年12月21日水曜日

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<社説>辺野古訴訟県敗訴 不当判決に屈しない 国策追従、司法の堕落だ 

琉球新報 2016年12月21日 06:01


司法の国策追従は目を覆わんばかりだ。国の主張を丸飲みして正義に背をそむけ、環境保護行政をも揺るがす不当判決である。  最高裁は翁長雄志知事の名護市辺野古埋め立て承認取り消し処分を違法とする判断を下した。行政法、憲法など多くの学者が誤りを指摘する福岡高裁那覇支部判決を無批判に踏襲する内容だ。

 政府が強行する辺野古新基地建設の埋め立て工事に司法がお墨付きを与えた。法治主義、地方自治を否定し、司法の公平性に背いて基地建設の国策を優先した。司法が担う国民の生命、人権、環境保護の役割を放棄したに等しい。

環境保全は不可能

 問題の核心は仲井真弘多前知事による辺野古埋め立て承認の当否である。

 公有水面埋立法は埋め立て承認に「適正合理的な国土利用」とともに「環境保全の十分な配慮」を義務付ける。高度成長期の乱開発、公害に歯止めをかける環境保護の理念が貫かれ、要件を満たさない埋め立て承認は「なす事を得ず」と厳格に禁じてさえいる。

 ジュゴンやサンゴなど貴重生物の宝庫の海域は埋め立てで消失する。「環境保全の十分な配慮」をなし得ないのは自明の理だ。
 前知事も県内部の検討を踏まえ「生活、自然環境の保全は不可能」と明言していたが豹変(ひょうへん)し、埋め立て承認に転じた。
 これに対し翁長知事は、環境や法律の専門家の第三者委員会が「承認は法的瑕疵(かし)がある」とした判断に基づき、前知事の埋め立て承認を取り消した。これが埋め立て承認と取り消しの経緯である。
 行政法の学者は埋立法の要件を極めて緩やかに解する高裁判決の同法違反を指摘する。また「普天間飛行場の危険性除去には辺野古新基地建設以外にない」などとする暴論を、行政の政策判断に踏み込む「司法権の逸脱」と批判し、国側主張を丸写しした「コピペ」との批判を浴びせている。

 最高裁判決は問題の多い高裁判決を全面踏襲した。「辺野古新基地の面積は米軍普天間飛行場の面積より縮小する」などとして新基地建設を妥当と判断した。県が主張した新たな基地負担増の指摘は一顧だにされていない。

 海域の環境保全策も「現段階で採り得る工法、保全措置が講じられている」として高裁判断を踏襲した。乱開発を防ぐ公有水面埋立法の理念からかけ離れた判断だ。

 普天間飛行場を辺野古に移設する妥当性、海域埋め立ての公有水面埋立法との整合性など慎重な審理が求められたが、最高裁は口頭弁論も開かずに県の主張を一蹴した。

最高裁が新基地に加担

 最高裁判決の根底にあるのは国策への追従姿勢だ。日米安保条約、不平等な地位協定に基づく沖縄への基地集中、負担強化の国策をただす姿勢のない司法の自殺行為、堕落と言うしかない。

 4月の米軍属女性暴行殺人事件、ヘリパッド建設工事再開、米軍ハリアー機墜落、オスプレイ墜落、そして辺野古訴訟県敗訴の最高裁判決と米軍基地問題、事件はなだれを打つがごときである。

 22日にはオスプレイ運用のヘリパッド完成を受けた米軍北部訓練場の過半返還式典が行われる。
 最高裁のお墨付きを得て、政府は早急に辺野古新基地の埋め立て工事を再開する構えだ。

 辺野古新基地の新たな基地負担に司法が加担した。最高裁の裁判官は過酷な沖縄の現実に正面から向き合ったと胸を張って言えるだろうか。基地負担の軽減を求める県民の願いを司法が踏みにじったのである。

 加速する基地建設の動きの最中にオスプレイが墜落した。国に司法が追従する基地負担強化に県民の怒りは燃え盛っている。

 翁長知事は辺野古訴訟敗訴が確定しても辺野古新基地建設を「あらゆる手段で阻止する」としている。事態は厳しくとも新基地建設に反対する民意は揺るがない。